子どもたちの日常のなかのありふれたしぐさや行動、いつもと違ったちょっとした言動には、大切な意味がこめられていることがあります。そんなちっぽけなことに現れる意外な心模様。それは、長年のカウンセラー経験が培った、子どもたちの心と行動を照らし合わせる眼があるからこそ、みえてくることです。
子どもと親、親と教師、教師と子どもとのふれ合いのなかで、みえてくる心の成長に関するちょっといい話。「保健だより」「学級通信」などのなかで「ふれあいコーナー」などの連載の題材として使えます。
<ご利用にあたって>
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海野千細(八王子市教育委員会学校教育部主幹)
子どものことを心配するあまり、つい口うるさくなってしまうという親は少なくありません。ガミガミ言うのはよくないとわかっているけれど、かといって、言いたいこともいわずに我慢ばかりしていたら、親のほうだってストレスがたまります。
もっと上手に子どもと話したい、親としての本音もそこそこ出しつつ、子どもとうまくコミュニケーションをとる方法はないだろうか。そう感じているお母さんお父さんにおすすめしたいのが、『親業』(トーマス・ゴードン著、近藤千恵訳、サイマル出版会)でいう「私はメッセージ」です。そのポイントは、会話の主語を一人称(自分)にすることです。
たとえば、自分が子どもに話しかけるときのことを思い出してください。主語が「あなた」(子ども)になっていませんか。主語を「あなたは~」にすると、「どうして~できないの」と詰問口調になったり、「~しなさい」という命令口調になりがちです。子どものことが心配で不安で話しかけているのに、子どもにとっては、ただプレッシャーをかけられていると感じるだけ。子どもは耳を閉ざしてしまいます。
一方、主語を自分にして「お母さんは~なのよ」というように、自分自身の気持ちを伝えるというスタンスで話をすると、子どもを責めるニュアンスは薄くなります。具体例で比べてみましょう。
「あなたは、最近ぜんぜん勉強しないけど、それで高校受かると思ってるの?!」
「お母さんは、最近あなたがぜんぜん勉強しないから心配なの。無理に頑張らなくてもいいと思うけど、やっぱり『このままだとどうなっちゃうのかな』と心配になったり、『しっかりしてよ』と言いたくなっちゃうの」
いかがですか。話の雰囲気がだいぶ違ってくるでしょう?
もちろん親だって人間ですから、いつもこんな冷静な話し方ができるわけがありません。ときには爆発して、「あなたは~」とガミガミ、ガンガン怒鳴ってしまうこともあるでしょう。でも、たとえきつい言い方をしてしまって、「ああ、また言いすぎちゃった」と思ったら、「お母さん、また言い過ぎちゃった、ごめんね」と、その気持ちも伝えてまたやり直せばいいんです。
子どものことをわかろうとして一生懸命やっているけれど、その一方で、「もっとしっかりしてよ」と思うのは、親として当然です。ただ、「しっかりしてよ」ばかりだと、それを聞かされる子どもはつらくなります。
だから、腹立たしい気持ちもあるけれど、「あなたの力になりたい」とも思っていて、ときには気持ちがグシャグシャになってどうしたらいいかわからなくなってしまうこともあると、正直に伝えていく。そのなかで、「お父さんとお母さんは、自分を見捨てないでつき合おうとしてくれている」ことが子どもに伝われば、しっかりした関係が築いていけるのではないかと思います。
▼プロフィール
海野千細(うみの・ちかし)
1952年生まれ。早稲田大学大学院文学研究修士課程修了。八王子市教育センター主任教育相談員、八王子市教育センター総合教育相談室長を経て、現在、八王子市教育委員会学校教育部主幹。主な著書:『心理臨床のノンバーバル・コミュニケー ション』川島書店(共著)、『実践・問題行動教育体系 第1巻 子どもを取り巻く 生活環境』開隆堂(共著)、『いじめ問題にどう取り組むか』文渓堂(共著)、『学校に行きたくないって誰にも言えなかった』ほんの森出版(共著)ほか。