ブックタイトル季刊理想 Vol.130

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概要

季刊理想 Vol.130

学校と法律<第42回>弁護士神谷信行エピグラフと著作権--卒業文集と学級通信の違い著作権が消滅していない作品の一部を卒業文集や学級通信に掲載する場合の注意点は何か、について考えます。●かみやのぶゆき1983年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。●かみやのぶゆき1983年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。「引用」に当たるかどうか小説の巻頭に、著名な先行作の言葉が警句的に引かれていることがあります。たとえば、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』第1巻(亀山郁夫訳・光文社古典新訳文庫・2006年刊)の扉頁の裏にヨハネ福音書の12章24節が記されています。「はっきり言っておく、一粒の麦は、地に落ちて死ななければ一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(新共同訳・1987年刊)このような冒頭の章句は「エピグラフ」と呼ばれますが、卒業文集や学級通信の冒頭に、著作権が消滅していない作品の一節を掲載する場合の法律関係について考えてみましょう。このエピグラフは著作権法上の「引用」に当たると解釈できます。『カラマーゾフの兄弟』の場合、この作品そのものが「主たる作品」にあたり、聖書の言葉は「従」たる関係にあります。聖書の新共同訳の刊行は1987年ですので、光文社文庫の亀山訳が出された2006年には、「新共同訳の翻訳著作権」は生きていますが、この亀山訳の場合、主従関係と引用の正当目的があるため、著作権法上の「引用」の要件を満たしています。「授業の過程」や「配布対象」に注意これに対して、卒業文集のエピグラフとして、荒井由実「卒業写真」の歌詞を記載する場合はどうでしょうか。特に、歌詞の一部ではなく、ワンコーラス部分全体を記載する場合について考えてみましょう。引用の正当目的については、卒業式という学校における「最後の式典」を永く心に刻みつけるための掲載という点で正当性は肯定されます。そして卒業式は「最後の授業」であり、著作権法35条の授業の過程における複製に当たると解釈できます(卒業式当日の授業に使うのではないから「授業の過程」とは言えないという反論もありえますが、文集を読むことで卒業式の記憶を呼び戻すことができる点、「授業の過程」と解してよいと考えます)。ただし、著作権法は権利者の利益を不当に害する複製を禁じていますので、この点、配布範囲についての検討が必要になります。著作権法35条に関して権利者団体が定めている『著作権法第35条ガイドライン』(ウェブでこのタイトルを検索されれば参照できます)によれば、一クラスを越えて複製物を配布することについては権利者の許諾が必要とされています。このため、一クラスの生徒に配布される卒業文集の場合許諾は不要ですが、全校生徒に配布する場合、ジャスラックに出版許諾の申請をすることが必要になります。これに対して、一クラスの保護者を対象に配布される「学級通信」は、「授業の過程」に含まれないものであり、卒業時の学級通信に「卒業写真」の歌詞を掲載する場合、著作権法35条の適用はなく、ジャスラックに許諾申請をすることが必要になります。態様としては同じ印刷物に掲載する場合でも、「授業の過程」であるかどうか、配布対象の量的な違いによって取り扱いが異なり、「引用」の要件を備えていない場合、許諾が必要となることにご注意頂きたいと思います。季刊理想2018冬号◆9