ブックタイトル季刊理想 Vol.129

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概要

季刊理想 Vol.129

物語読みクラブ 秋の活動報告●なかす まさたか1938年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。言葉の歳時記●兵庫教育大学名誉教授中洌 正堯 現行の小学校国語教科書に載っている物語を中心に、ABCの三人がクラブ活動を始めました。 Aは、物語をアニメ映画化するなどの映像的・劇的視点から、Bは、物語の虚構の方法をメタ認知する視点から、Cは、比べ読み・重ね読みによって新たな世界を形成する視点からの発言です。 Ⅰ 「ごんぎつね」(新美南吉)A 最初読んだときは、兵十が火ひなわじゅう縄銃を持ち   出してごんを撃つとは予想もしていないの  で、私たち読み手は、事の成り行きに呆ぼうぜん然  とする。そして、おもむろにそうなったわ  けを考え始めるんだ。B そうだね。ごんの償つぐないや好意は一方的で、兵十にすれば、特にうなぎの一件から〈ぬすっとぎつねめ〉の印象は少しも変わっていなかったことが分かる。C 同じ作者の「手ぶくろを買いに」では、母  さんぎつねが〈本当に人間ていいものかし  ら。〉とつぶやく。ごんがそこにいたら、ど  う言うだろうか。A 「いい」か「こわい」かは、両方の関係しだいだと思うよ。ところが、「いたずらやぬすみ」は目についても、「償いや好意」は伝わりにくいときているからね。C ところで、話は変わるけど、「おにたのぼうし」(あまんきみこ)も、おにたは女の子に尽くしているのに、豆まきを求められ、消えてしまうことになるよね。「ごんぎつね」とおおまかな構図では同じだと思うんだけど、どう?B そう言えば、どちらも「神様」扱いにされ  るんだね。A でも、反応は違う気がする。女の子は「さっ  きの子は、きっと神様だわ。」と言う。おに  たが聞いたら救われるんじゃないか。一方、   ごんは、神様のしわざと聞いて、「引き合わ  ない」と愚ぐち痴る。こちらは、兵十に自分のし  わざと分かってもらえてその点は救われた  んじゃないかなあ。 Ⅱ 「ニャーゴ」(みやにし たつや)B 猫の危険性についての先生の話をちっとも聞かない三匹の子ねずみが、猫の「たま」と出合う。〈ニャーゴ〉と攻撃宣告されても平気で、〈おじさん、だあれ。〉と問いかけ、〈たまおじさん〉と分かると、桃採りに誘う。帰りぎわに、もう一度攻撃宣告されると、三匹は〈ニャーゴ〉と反応する。たまおじさんの初めの〈ニャーゴ〉は「こんにちは」で、今のは「さよなら」でしょうというわけだ。A けっきょく子ども四人分の桃のおみやげをもらって、たまおじさんは敗れ去るのだが、さて、約束はどうなるのかな。C 「食うか食われるか」の緊張関係を、純真さや無邪気さ、機知や独り合点で克服する物語群の一つだね。登場人物の発言や言葉に絡からんでいるものに、同じ作者の「おまえ うまそうだな」や、ほかにも「きつねのおきゃくさま」(あまんきみこ)などがある。A 状況や言葉の二重性をめぐる危あぶなっかしい意味解釈のスリルという点では、「あらしのよるに」(木村裕一)や「注文の多い料理店」(宮沢賢治)などもあるね。こちらも前者は、約束の明くる日がこわい。26季刊理想 2018秋号 ◆ 1112