ブックタイトル季刊理想 Vol.126

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概要

季刊理想 Vol.126

8森山卓郎早稲田大学文学学術院教授■「話のさわり」って?「話のさわりだけ聞かせる」とはどんな意味でしょう。「話などの最初の部分」でしょうか、「話などの要点」でしょうか。平成二八年度の「国語に関する世論調査」(文化庁)によると、53・3%の人が「話などの最初の部分」と答えています。しかし、本来は後者の「要点」という意味(こちらを答えた人は36・1%)。もともとは、江戸時代の義太夫節(浄瑠璃の一つ。三味線の伴奏での太夫の語り)で、ほかの先行の曲や節を取り入れた(いわばそういう節に「触った」?)箇所のことで、「聞きどころ」を表す言葉だったとされています。しかし、おそらく「表面をさわる」から「さわり」だというように解釈され、「最初の部分」というように誤解されたのでしょう。「さわりだけ聞かせて」などという言い方がよくされることも「初めの部分」という解釈がされやすくなる原因と言えます。本来の意味が特殊なものである場合、その元の意味は忘れられ、誤解されがちです。■「触れる」のは、琴線?逆鱗?「琴線に触れる」の意味も人によって受け取り方が違うようです。「怒りをかってしまうこと」と解釈する人もあるようです。が、本来の意味は「感動や共鳴を与えること」です。「琴線」つまり「琴の線」とは、「感動・共鳴する心」の比喩的表現。同じ「触れる」でも、「逆鱗に触れる」という言葉があります。こちらは目上の人を怒らせること。「逆鱗」とは触ると龍が怒るという「逆さまに生えた鱗」のことです。同じ「~に触れる」という形ですが、「琴線」と「逆鱗」とでは、ずいぶん違いますね。■「役不足」と言われると、うれしい?がっかり?「役不足」と言われるとうれしいですか?がっかりですか?「本人の力量に対して役目が不足」しているというのが本来の意味。しかし、「役目に対して本人の力量が不足している」と解釈する人も数多くあります。誤解すると全く評価が違うことになるので要注意!これなどは「役」と「不足」の関係が示されていないことによる誤解です。■慣用句の誤解ここで取り上げたような表現を慣用句と言います。特定の意味を表す、慣用的・●もりやまたくろう早稲田大学文学学術院教授。京都教育大学名誉教授。専門は日本語学。近著に『教師コミュニケーション力』(明治図書)、『日本語・国語の話題ネタ』(ひつじ書房)『日本語の〈書き〉方』(岩波ジュニア新書)など。慣用句の「誤用」に寛容に!?固定的な言葉の組み合わせです。特定の意味を表すので、意味はどうしても誤解されやすくなります。元の言葉が特殊なものだったり、似た言葉があったり、関係が表されていなかったりと、様々な要因で、本来の意味からずれた解釈が出てくるのです。所詮は「慣用」句。そういう解釈に出会った時、「目をつぶって」、「寛容」になることも必要。言葉とは変化するものだからです。また、他人の間違いを「他山の石」として、自分は辞書を引くようにする、というのもいいことです。ところで、この文章のさわりってどこでしょう?168◆季刊理想2017冬号