ブックタイトル季刊理想 Vol.126

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概要

季刊理想 Vol.126

兵庫教育大学名誉教授中洌正堯23冬の物語―比べ読みのすすめ現行の小学校国語教科書に載っている物語190編の〈主題性〉をたずねて、分類を試みる。その活動を通して、比べ読み・重ね読みのおもしろさをつかみ、学びを深めていく。〈主題性〉をここでは、大きく〈人と自然との交流・葛藤〉と〈人と人との親和・葛藤〉の二つに分ける。Ⅰ人と自然との交流・葛藤【手ぶくろを買いに】(新美南吉3)(【】内は教材名、○数字は配当学年。以下同じ)雪が降って、きつねの親子は手ぶくろを買いに行く。曲折があった後、手ぶくろを得るが、母さんぎつねには「本当に人間はいいものかしら。」との疑問は残る。この作品は、きつねの側から人間の側への接近である。一方、【雪わたり】(宮沢賢治56)では逆に、四郎とかん子は、雪の凍った月夜に催されるきつね小学校の幻灯会に招かれ、「きつねが人をだますなんてうそ」と知る。【初雪のふる日】(安房直子4)女の子は、石けりの輪の続きに、いつのまにか疾走する雪うさぎたちの流れに引き込まれる。女の子は、春のよもぎのまじないやなぞなぞによって危機を脱する。女の子を誘い込む幻覚のような雪うさぎは雪の精の形象化と見ることができる。これに対して、春の物語であるが、【白い花びら】(やえがしなおこ3)の中で、ゆうたが出合う女の子は、花(さくら)の精の形象化と見られる。物語の登場人物について、人を超えた「雪の精」「花の精」という捉え方をした。それに近い存在として、一度話し合っておきたい概念に、【かさこじぞう】(いわさききょうこ2)の「じぞうさま」や、【ごんぎつね】(新美南吉4)の「神様」がある。また、【おにたのぼうし】(あまんきみこ3)の「おに」についても同様である。Ⅱ人と人との親和・葛藤秋の物語もそうであったが、ここでも、家族関係、友情関係に注目する。【モチモチの木】(斎藤隆介3)豆太は、峠の猟師小屋にじさまと二人で暮らしている。五つの子どもにはきびしい境遇であるが、じさまが腹痛で倒れたとき、豆太は、真冬の夜道をはだしで、半道もあるふもとの医者様を呼びに走る。祖父と孫の関係の日常的、生活的なありようを語ったものに、【だいじょうぶだいじょうぶ】(いとうひろし5)がある。【わらぐつの中の神様】(杉みき子5)は、祖父母、両親にマサエという家族構成である。雪の降る夜、祖母が孫のマサエにわらぐつの話(自分の結婚のいきさつ)をして聞かせる。【あいつの年賀状】(重松清5)僕は裕太とケンカし、絶交状態になりながら相手のことが気になってしかたがない。年末年始の間に、裕太の転校問題が起こり、ともども友情を自覚する。【みちくさ】(阿部夏丸5)高学年になって遊ばなくなっていた僕と大介は、鯉の捕獲をめぐって意気投合する。●なかすまさたか1938年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。季刊理想2017冬号◆7