ブックタイトル季刊理想 Vol.117

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概要

季刊理想 Vol.117

10 ◆ 季刊理想 2015 秋号子どもと生き方⑧吉本 恒幸 聖徳大学大学院教授新しい学習指導要領を読み解く総則編 その(1) 平成27年3月27日、文部科学省は学校教育法施行規則の一部改正を行い、それに伴って学習指導要領の一部を改正し、告示しました。改正された一部とは「道徳」のことです。道徳は子どもの生き方に直結する教育活動です。これから皆さんとともに、改正された道徳について大切な部分を見ていきたいと思います。なぜ改正を急いだのか…二つの理由 これまで学習指導要領は、各教科やその他の教育活動を見直し、全体を同時に告示するという形で示されてきました。その周期はおよそ10年程度となっていました。現在の学習指導要領は平成20年に改正されたのですから、次回は平成30年近くということになります。しかし、道徳に限って前倒しで平成27年に改正したのはなぜなのでしょうか。 今回の改正の意図は「特別の教科 道徳」の設置にあります。現政権与党は、以前から「徳育の教科化」を求めていました。かつて文部科学大臣は前の中央教育審議会に教科化について諮問しましたが、その折は却下されました。いったん政権交代がなされた後、現政権に戻った時、平成23年に大津市でいじめによる生徒の自殺事件が発生しました。これを機に、「いじめ問題などに学校は真剣に取り組んでいるのか」「道徳教育や道徳の授業は適切に行われているのか」などの声が内外から起こり、教育再生実行会議などを通して「道徳の教科化」が再浮上しました。改正を急いだ理由の一つは、子どもを取り巻く問題状況への対処が求められたことにあります。 他の一つは、道徳授業に対する学校関係者の温度差を解消することです。年間35時間を実施していると数字上は表明しても、実態は他の教科学習や学校行事の事前指導などに転用されたり、道徳番組のテレビ視聴で終わったりしていて、授業の質と量が担保されていない問題がありました。教科にして教科書をつくれば教師は授業を行い、様々な工夫を取り入れたレベルの高い授業が全国どこでも見られるようになり、結果として道徳の底上げが果たされる、との考えによります。改正の要点…名称変更 学校教育法施行規則では、教育課程について「道徳の時間」を「特別の教科である道徳」に変更し、道徳教育を学校の教育活動全体を通して行い、「特別の教科である道徳」を道徳教育の要として位置付けました。このことは以前の構造と変わりません。名称が入れ替わったということです。ただし、学習指導要領では「特別の教科である道徳」を「特別の教科 道徳」と表現し「道徳科」と略称するとしています。新たな枠組みとして登場する道徳授業は、三つの用語をもつことになります。道徳教育に関する記述 これまでの学習指導要領では、第1章と第3章に道徳教育にかかわる目標と内容が記述されており、第3章には道徳の時間にかかわる目標と内容も含まれていたため分かりにくいという指摘がありました。 今回、第1章の総則に全ての教育活動を通して行う道徳教育を、第3章 特別の教科 道徳は、いわゆる道徳の授業に関することのみに特化して記述がなされています。区分けが明確になりました。①道徳教育の目標「自己の生き方(中: 人間としての生き方)を考え、主体的な判断の下に行動し、自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を養う。」 以前には、教育基本法の目的と目標に関連する長い文言が道徳教育の目標達成の前提として示されていました。その部分は「道徳教育を進めるに当たって」との文言に続く配慮事項になりました。 目標は明瞭で分かりやすいものになったと思います。道徳教育も特別の教科道徳(道徳科)も、その目標は、最終的には「道徳性」を養うことであることを前提としつつ、各々の役割と関連性を踏まえた記述になりました。今後は、その役割分担をしっかりと維持していくことが重要です。②豊かな体験といじめ防止 総則の中の項目の一つに「人間関係や環境を整えるとともに、集団宿泊活動やボランティア活動、自然体験活動、地域の行事への参加などの豊かな体験を充実すること。また、道徳教育の指導内容が日常生活に生かされるようにすること。その際、いじめの防止や安全確保等にも資することとなるよう…。」との文言が入りました。今回の改正がいじめ問題への対応でもあったことが理解できる箇所です。●よしもと つねゆき聖徳大学大学院教授。全国小学校道徳教育研究会会長、公立小学校長を歴任。日本道徳教育学会会員。文部科学省道徳教育指導資料作成委員。中央教育審議会委員などを務める。