ブックタイトル季刊理想 Vol.117
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季刊理想 Vol.117
言葉の歳時記●11季刊理想 2015 秋号 ◆ 9中洌 正堯 ●兵庫教育大学名誉教授●なかす まさたか1938 年、北九州市生まれ。兵庫教育大学名誉教授。元兵庫教育大学学長。国語教育探究の会・国語論究の会顧問。国語教育地域学の樹立を目ざし、「歳事(時)記的方法・風土記的方法」を提唱する。著書に『国語科表現指導の研究』(溪水社)、『ことば学びの放射線』(三省堂)ほか。歌の情景・百人一首の秋 歌の言葉をイメージ化し、個々のイメージをつないで写真を創り、心のアルバムにおさめ、折々に歌を口ずさんでみよう。夜半の月・有明の月21 今来こむといひしばかりに長月の有明の 月を待ち出いでつるかな 素性法師57 めぐりあひて見しやそれとも分かぬま に雲がくれにし夜よは半の月かな 紫式部 21は、今来ると言うから、待って待っているうちに、夜明けの月を見てしまったのであり、57は、久しぶりに出会った友だち(夜半の月)なのに、すぐに雲にかくれてしまった感じなのである。秋風71 夕されば門か どた田の稲い なば葉おとづれて葦あしのま ろやに秋風ぞ吹く 源経信94 み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと 寒く衣ころもうつなり 藤原雅経 風を取り入れた歌は少なくないが、「秋風」に限定し、しかも中心素材となっているのはこの二首である。 71は、夕方になると、風が門前の田んぼをさやさやと音立てながら、わが家のほうへ吹き渡って来るという自然詠。ただし、擬人化した深読みもあり得る。 94は、二句目の「秋風」のところで述部が省かれており、風がどうなのか読み手がイメージの世界で補うことになる。露・霧・霜37 白し らつゆ露 に風の吹きしく秋の野はつらぬ きとめぬ玉ぞ散りける 文屋朝康87 村むらさめ雨の露もまだひぬまきの葉に霧たち のぼる秋の夕暮れ 寂蓮法師29 心あてに折らばや折らむ初霜のおきま どはせる白菊の花 凡河内躬恒 37は、白露を玉と見立てて、それを貫きとめていないので、風でバラバラ散ってしまうというものである。 87は、通り雨のあった杉の林を霧が立ちのぼっていく山水画などを思い浮かべてみる。なお、64の「朝ぼらけ」の歌にも川霧が出てくるが、冬の扱いである。 29は、白菊の庭に一面の初霜が降りた白銀の幻想世界を捉えている。鹿・きりぎりす05 奥山に紅も みぢ葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時 ぞ秋は悲しき 猿丸大夫83 世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥 にも鹿ぞ鳴くなる 藤原俊成91 きりぎりす鳴くや霜し もよ夜のさむしろに衣 かたしきひとりかも寝む 藤原良経 鹿が鳴くのも、こおろぎが鳴くのも、いずれも今の境地や状況のマイナス気分に響き合い、あるいは深めさせるものとなる。もみぢ・八重むぐら 「もみぢ」を取り込んだ秋の歌も多い。竜たつたがわ田川の紅葉の歌には、17「ちはやぶる」、69「あらし吹く」などがあり、紅葉を神に手たむ向ける24「このたびは」などもある。32 山川に風のかけたるしがらみは流れもあ へぬもみぢなりけり 春道列樹 ここは、赤や黄の「もみぢ」が川中に散りたまって、「しがらみ」になっている。47 八やへ重むぐら茂れる宿のさびしきに人こそ 見えね秋は来にけり 恵慶法師 「八重むぐら」は、その名の草も含めた雑草。華やかな「もみぢ」との対比、「来る」をめぐる人と秋との対比を味わってみよう。14