学級通信なんでも相談室

第8回
子どもの顔写真などの個人情報をどう扱うか?

学校現場においても、プライバシーや個人情報の保護が大きな課題となっています。子どもの顔が少しでも特定されるような写真は、管理職から掲載を止められてしまい、効果的な紙面づくりができないという嘆きの声が、PTA広報担当者や学校学級新聞指導者からよく聞かれます。これは通信活動にとって、大きな問題といえます。どう考え、どう対処したらよいのでしょうか?

第2回「育て!プリントコミュニケーション」コンクールの「審査員奨励賞」を受賞した岡崎市立生平小学校の学校通信『生平小だより』は、各審査員から「とにかく写真が素晴らしい」「ビジュアル賞をあげたいくらいだ」と絶賛されました。アングルがいい、構図がいい、子どもたちの表情がいい、と三拍子揃った画像がふんだんに掲載されています。
その他の入賞作・応募作の中にも、子どもたちの姿が鮮明に写り、それが良い効果をあげている通信がたくさんありました。つまり、顔写真掲載の「禁止・制限・自粛」の風潮は全国一律の傾向とはまだ言い切れないのです。同時に、これが非常に強いタブー事項になっている、過剰なまでに自主規制をしている地域もあります。校長の姿勢、職員の考え、保護者の意識等によって、学校毎に対応がまちまちな地域もあります。つまり現状は、「ケースバイケース」なのだと思います。
画像の効果的な掲載が誌面を活性化し豊かにするのは事実ですから、学校現場の状況に合わせて、「出来るだけ」「出来る範囲で」うまく載せられるよう努力することが現実的な対応ではないでしょうか。画像は、通信にとって絶対不可欠のものではありません。画像がなくても、素晴らしい内容の通信は発行できます。個人が特定できないような構図の写真を工夫することも可能でしょう。
しかし、画像を掲載する場合、管理職の理解を含めた校内の合意の形成と共に、保護者、子どもたちとの関係が決定的に重要です。「インフォームドコンセント」(知らされた上での合意、説明と同意)が不可欠でしょう。
まず、この通信では編集方針の一つとして「こういう場合、こういう意図で、こういう感じの写真を載せたいと考えています」「個人が特定できるような写真を載せるときは、こういう手続きで了解を得るつもりです」など、掲載までのプロセスやルールを明確にしておくと、後々トラブルになるのを避けることができます。
学年・学級通信は、不特定多数に広くばらまかれるのでなく、受け手のはっきりした特定の少数に配布されるミニコミであるという性格も理解してもらうとよいでしょう。
いずれにしても、最も大切なのは、子どもたちおよび保護者との信頼関係の醸成です。そして、その通信が学年経営・学級経営に生きて働く存在になっているかどうかです。

法律家の立場から、弁護士の神谷信行先生に子どもの肖像権や個人情報についてお書きいただきました。併せてお読みください。

  ■子どもの肖像の利用と法律          弁護士 神谷信行

1.自分の肖像を写真やビデオなどによって公表することについて、私たちは「肖像権」という人格権を持っています。これは大人、子どもを問わず、守られなくてはならない権利です。これは、自らの私生活について他人の関与を許さない「プライバシー権」に含まれるものです(憲法13条の「幸福追求権」に基づく)。

2.子どもの意見表明権
子どもが未成年の場合、保護者が代わりに公表についての同意をすることになりますが、わが国も批准している『子どもの権利条約』の「子どもの意見表明権」(12条)について配慮することが必要です。この条項の第1項をみてみましょう。

「締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。」

ここに記載されているように、「年齢・成熟度」に応じた意見の斟酌を考慮しなくてはならないと思います。小学校低学年、高学年、中学生、高校生と発達段階を考えた場合、少なくとも中学生以上について、生徒会を通じて生徒の意見を取り入れることが必要でしょう。小学生については、学校と保護者会の協議が中心となるでしょうが、高学年については学級会や児童会で、写真・ビデオを公表することのプラス面とマイナス面を議論し合うことも大切な「学び」であると考えます。

3.「個人情報」という概念について
「個人情報保護法」が施行されて以来、日常生活で「個人情報」という言葉が頻繁に使われるようになりました。個人情報保護法における「個人情報」とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」のことを言い(2条)、「映像」も特定の個人を識別可能であれば、「個人情報」に該当します。
この個人情報の保護の観点から見ても、特定の個人を識別できる写真・映像の取り扱いについて、保護者・児童生徒と十分な話し合いをすることが必要と考えます。