ブックタイトル季刊理想 Vol.124

ページ
14/24

このページは 季刊理想 Vol.124 の電子ブックに掲載されている14ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

季刊理想 Vol.124

●中村 浩志先生プロフィール1947年生まれ。信州大学教育学部卒業。京都大学大学院修士課程修了および博士課程単位取得。専門は鳥類生態学。理学博士。これまでの主な研究はカワラヒワの生態研究、カッコウの托卵生態と宿主との相互進化に関する研究、ライチョウの生態と進化に関する研究など。2002年、カッコウの研究で第11回「山階芳麿賞」受賞。日本鳥類学会元会長。ライチョウ会議議長。主な著書に『戸隠の自然』『千曲川の自然』(ともに信濃毎日新聞社)、『甦れ、ブッポウソウ』「ライチョウが語りかけるもの」(ともに山と渓谷社)、『二万年の奇跡を生きた鳥 ライチョウ』(農山漁村文化協会)など。連 載 人間と鳥の世界?中村 浩志(信州大学名誉教授      中村浩志国際鳥類研究所代表理事)卵擬態の存在 カッコウの托卵習性は、ヨーロッパではアリストテレスの時代、日本では平安時代から知られていました。しかし、カッコウの托卵の科学的な研究は、19世紀に入ってからです。イギリスの鳥学者バルダムズ(Baldamus 1892)は、カッコウの卵は托卵する相手の鳥(宿主)の卵に似ている傾向にあることを明らかにしました。 カッコウは、さまざまな種類の鳥に托卵していますが、ヨーロッパヨシキリに托卵されたカッコウ卵は、ヨーロッパヨシキリのうす青の地に茶の斑点がある卵に似ており、マキバタヒバリに托卵されたカッコウ卵はマキバタヒバリの黒ずんだ卵に似ているというように、托卵する相手の鳥の卵に合わせ、それぞれに似た卵を産んでいたのです。 カッコウは、このように宿主の卵に似た卵(擬態卵)を産むことから、カッコウには宿主に対応したいくつかの系統(托卵系統)が存在する可能性が指摘されました(A.Newton 1893)。では、カッコウには、本当に托卵する宿主ごとに托卵系統があるのでしょうか?  また、あるとしたら、なぜ、長い間にそれぞれが別の種に分かれてしまうのではなく、カッコウは一つの種として存続しているのでしょうか? 卵擬態の存在を契機に、多くの研究者がこれらの謎の解明に取り組むことカッコウの托卵と卵擬態進化の謎     カッコウの托卵には、100年にもわたって大きな謎が存在しました。     その謎が、中村先生による、千曲川での25年間の研究で解明されたのです。捕獲したカッコウをウイングリボンで個体識別できるようにして放鳥になりました。 しかし、これらの謎の解明は、その後一向に進展しませんでした。カッコウは、捕獲が難しい鳥だったからです。解明するには、カッコウを捕獲し、1羽ごと個体識別し、それぞれがどんな宿主に托卵しているかなどを野外で確認することが不可欠だったからです。 この100年にわたる鳥類学の大きな謎は、千曲川での25年間にわたる研究から、解明されることになったのです。いかにカッコウを効率よく捕獲するか 最初に取り組んだのが、いかに効率よくカッコウを捕獲するかでした。この鳥は、いつも高いところを飛び回っています。最初の試みは、木の梢から突き出すように棒を立て、その先に「鳥もち」を塗る方法でした。予想通り、カッコウはすぐにその棒にとまったのですが、木に登って捕らえるまでに逃げられてしまうのです。カッコウは体重が重いので、「鳥 季刊理想2017 夏号◆13