ブックタイトル季刊理想 Vol.122

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概要

季刊理想 Vol.122

● 特別寄稿 ●「給食一方で、  見城 美枝子(けんじょう・みえこ)先生●プロフィール早稲田大学大学院理工学研究科博士課程単位取得。              東京放送入社後、フリーに。海外取材を含め56 ヶ国訪問。著作、対談、講演、テレビ等でエッセイスト、ジャーナリストとしても活躍。『ニッポンの食と農 この10 年』発売中。その他著書『会話が苦手なあなたへ』『会話が上手になりたいあなたへ』等現在 青森大学副学長・新島学園短期大学客員教授・サイバー大学教授   NPO 法人ふるさと回帰支援センター理事長 他多数 各地の学校には様々な給食事情があるが、共通しているのは子供はごはんが好きで、しかし昨今の家庭は昔のようにごはん食ではなく、朝食をとって来ない子や夕食がごはんでなかったりする子にとっては給食が炊きたてのごはんを食べるチャンス、という現実もあるということ。 主食をごはんにするとおかずも和になって、カロリー摂りすぎ気味の子にとってもいいのです、と説明する校長先生に思わず握手をしたいほど嬉しかったのを覚えている。 ちなみにこのごはんのご縁は子供たちの交流事業につながり、渋谷・大館ツーリズムとなって渋谷の子供たちは自分たちの給食のごはんのふるさと、秋田こまちの田んぼを訪ねるようになった。給食のごはんがたわわに実った黄金色の稲穂から採れるということを目の当たりにすることはまさに食育、子供たちにとってごはん粒を残さないようお説教されるより効果大ではないだろうか。 食育基本法は「国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことができるよう、食育を総合的かつ計画的に推進する。」ことを目的に平成17年に施行された。しかし世の中は「こ食」化へ向かい、家族揃っても各自が別々なものを食べる「個食」、一人で食事の「孤食」、同じものばかり食べる「固食」、ダイエットに傾く「小食」、パンや麺等粉ものばかり食べる「粉食」、大人のいない子どもだけの「子食」、加工食品や調理済みの食品、また、マヨネーズ、ケチャップ等で濃い味付けで食べている「濃食」、と7パターン化が進み、小児成人病も増加している。子供のメタボリックシンドロームは脂肪細胞が増加に転じる3歳から6歳の頃がスタートラインといわれ、小学校で規則正しくお昼をとるという給食の時間は栄養バランスのとれた健康な体質作りの観点からも欠かせない制度だ。 給食は保護者負担が月4000円程度で賄われている。春にはイチゴや秋にはりんご冬はミカンなど季節のフルーツも付いて一食200円ほどだ。が、文部科学省の調査によると、全国の公立小中学校の給食費未納額推計は約22億円にのぼる。うち、経済的理由は33.9%で、給食費を支払えるのに支払わないが61.3%にのぼる。一時期話題になったモンスターペアレントの「自費で食べているのに、なんで、いただきますやごちそう様をいわなければならないのだ」という、動植物の命をいただくことへの畏敬の念もなく、食事をいただけることへの感謝の気持ちもない親たちに育てられる子供たちの未来はどうなるのだろうか。 「衣食足りて礼節を知る」で、恵みへの感謝は子供たちが社会生活を行う上での第一歩だ。 北海道のテレビ局が制作した教養番組に給食担当の女性のドキュメンタリーがあった。その女性は自治体の職員も動員して近隣からフキやタケノコやいろいろ食材を採ってきて、子供たちにふるさとの旬の味を給食として食べさせることに情熱を燃やし奮闘していた。あくを抜き茹でて薄味に煮たフキなどしみじみとした美味しさが映し出され、満足そうな子供たちの笑顔が画面に溢れる。しかし定年となり新しい担当者が来る。前任者としてひとつひとつ、給食と地産地消の大切さを説く姿は後光が差しているかのようだった。 野菜の高騰で給食はパン一個等、昨今の給食を取り巻く環境は決して楽観視できるものではないが、成長期の6年間で平均35センチも身長が伸びる子供たち。給食を通して心の安定も大きく広がるのではないだろうか。給食を通して心の安定を4 ◆ 季刊理想 2016 冬号