ブックタイトル季刊理想 Vol.120

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概要

季刊理想 Vol.120

「批評読みと交流」の可能性 新しい学習指導要領の議論も熱を帯びてきた。近年、強調されているのは、「生きる力」の育成である。「何を知っているか、何ができるか」と共に、「知っていること・できることを実際の場でどう使うか」、そして、これらの土台であり、目標でもある「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という三つの柱の資質・能力を各教科などにおける具体的な活動を通して育んでいくことが求められている。 こうした力を育てるために、とりわけ「アクティブ・ラーニング」の推進が叫ばれている。「アクティブ・ラーニング」とは、児童・生徒の能動的な参加によって行われる学習を意味する総称的な言葉であり、「課題の発見と解決」に向けた「主体的・協働的な学習」である。 しかし、「アクティブ・ラーニング」と言いながら、グループ討議やペア・ワークといった表面的な活動だけで終ってしまうケースが多いことも指摘されている。 こうした事態に陥らないために、児童・生徒がテキストを自分のこれまでの知識や経験と結び付けながら、対象世界と深く対話していくアクティブな学びとして「批評読みと交流」の可能性について述べてみたい。 私が教師生活二校目に赴任した小学校は「教育困難校」と言われる学校であった。この学校で、私は「学習者の側に立つ」授業づくりに没頭した。教科書に書いてあることをどうわからせるかという伝授型授業の限界に突き当たったからである。そしてたどり着いたのが、対話を中核にした学びとしての「批評読みとその交流」であった。その実践の積み重ねを通して、「学習者の側に立つ」授業においては、子どもたちの既有知識・経験を引き出しながらテキストにどう出会わせるかが重要であることに気づいたのである。論理展開の工夫を捉えるには 例えば、三年生の説明的文章の授業で身につけさせたい読解力として、筆者の論理展開の工夫(段落相互の関係や文章の全体構成)を捉える力をあげることができる。「すがたをかえる大豆」という教材で、私は次のような「批評読みとその交流」の授業に取り組んだ。 「すがたをかえる大豆」は、「むかしの人々のちえにおどろかされます」という結論部分を言うために、まず、その形のままやわらかくおいしくする工夫(煮豆・いり豆)、次に、粉にひいて食べる工夫(きなこ)、より高度な工夫として大切な栄養だけを取り出して食べる工夫(とうふ)、微生物の力を借りて違う食品にする工夫(納豆・みそ・しょうゆ)、さらに取り入れる時期や育て方を変える工夫(枝豆・もやし)という順序で説明している。 こうした論理展開の工夫に気づかせるために、教材本文と出会う前に、自分だったらこれらの食品事例を結論に向けてどのような順序で並べるかという課題を設定してみた。すると、子どもたちは「この事例はここだ。なぜかというと……」というように主体的に考え始め、他者との対話が活発になった。その上で、筆者の書いた文章に出会わせたところ、白百合女子大学教授 河野 順子先生これからの国語教育の課題―「批評読みとその交流」によるアクティブな学び―季刊理想 2016 夏号 ◆ 7