ブックタイトル季刊理想 Vol.120

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概要

季刊理想 Vol.120

●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。学校と法律<第32 回>弁護士 神谷 信行●かみや のぶゆき1983 年弁護士登録。社団法人著作権情報センター主催「市民のための著作権セミナー」の講師担当。『知って活かそう!著作権』『編曲家の権利』など著書多数。一般相対性理論100周年の今年、アインシュタインの著作権消滅すアインシュタインと宮澤賢治は、現実には会ったことはないのですが、一般相対性理論と宮澤賢治の世界観とは密接な関連があります。ジョバンニが亡くなった親友カンパネルラと中有の時空を旅する物語『銀河鉄道の夜』の世界にそのまま引き継がれています(「ジョバンニの切符」の章で鳥捕りが言う「不完全な幻想第四次の銀河鉄道」を参照)。 賢治が1923年刊行の相対性理論に関する洋書を蔵していたり、詩稿の中に「アインシュタイン先生」という言葉が見えることを斟酌すると、賢治のこの世界観はアインシュタインの一般相対性理論に基づいていると考えることができます。二人の著作権の消滅 この二人の著作権についてみると、宮澤賢治の没年は1933年ですので、旧著作権法により、死後30年が経過した1963年末に賢治の作品の著作権は消滅しました。 これに対してアインシュタインの著作権は、何と今年の5月21日に消滅します。詳しくみると、彼は1955年4月18日アメリカにおいて亡くなりました。現在、TPPにおける合意(保護期間70年への延長)に基づく著作権法改正はなされていないため、わが国における保護期間は没後50年(2005年末まで)となります。そして、アインシュタインはアメリカで没したことにより、連合国国民に関する「戦時加算」の適用があり(太平洋戦争宣戦布告の日から講和条約発効の前日まで3794日を加算)、2006年元旦から3794日を経過した2016年5月21日に戦時加算期間が満了しました。 宮澤賢治生誕120年、一般相対性理論100周年の年に、アインシュタインの著作権が切れるとは何という時空のめぐりあわせでしょう! 事物をとりまく布置(コンステレーション)の不思議さを思わないわけにはいきません。日本で講演したアインシュタイン 今年2016年は、アインシュタインが一般相対性理論を発表して100周年(そして私の尊敬する宮澤賢治生誕120年)の年です。この記念すべき年の2月、アインシュタインがこの理論に基づいて存在を予言した「重力波」(時空のゆがみの時間的変動が波動として光速で伝わる現象)が直接観測されたとの報道があり、科学界を興奮させました。 一般相対性理論は時間と空間の関係についての理論で、私たちが暮らしているこの世界には万人共通の「絶対的時間」は存在せず、「動いているものの時間は遅れる」という「時空の相対性」を説く画期的な理論です。 アインシュタインはこの理論によって、1922年11月10日にノーベル物理学賞を受賞しました。受賞の時、彼は日本での講演旅行のため上海に向かう船上にあり、17日神戸、19日東京、12月2日には仙台に移動して講演を続けました。この年、相対性理論に関する書物が24冊国内で刊行されていたとの記録があります(寮美千子『宮澤賢治「四次元幻想」の源泉を探る書誌的考察』)。一般相対性理論に基づく賢治の世界観 この滞日の間11月27日、岩手県花巻で宮澤賢治の妹トシが肺結核によって亡くなり、同日付けの「永訣の朝」、「松の針」、「無声慟哭」の絶唱が書かれました。アインシュタインが仙台で講演した12月2日はトシの初七日前日にあたり、賢治は聴講できませんでした。こうして、現実世界におけるアインシュタインの時空と賢治の時空はクロスすることはありませんでした。 しかし翌年1月、賢治は詩集『春と修羅』の序詩の中に「第四次延長」という言葉を用い、私たちの生きている世界は「縦・横・高さ・時間」の四つの次元を統合した時空であることを謳いました。そしてこの世界観は、14 ◆ 季刊理想 2016 夏号